DX(デジタル・トランスフォーメーション)の必要性が叫ばれて久しい昨今、特に建設業界においてDXは喫緊の課題となっています。しかし、なぜ他業界にも増して建設業界ではDXが急務とされているか疑問に思う人もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、建設業界で働く人に向けて、建設DXが求められる背景を解説します。加えて、DXのメリットや具体的なデジタル技術、建設DXの取り組み事例も紹介しますので、ぜひ自社でDX推進する際のヒントとして活用ください。
目次
建設業におけるDXとは?
建設業におけるDXとは、「デジタル技術によって企業全体を変革し、競争優位性を確立すること」です。AIやICTなどの先進技術を複合的に活用し、建設生産プロセスの最適化や業務の自動化を推進します。
競争優位性の確立による持続的な成長が最終的な目標となりますが、現段階では多くの企業が建設業界の抱える課題解決を目指して取り組んでいます。
「建設業の2024年問題」とは?
建設DX推進が急務とされる背景のひとつとして、「建設業の2024年問題」が挙げられます。これは、2024年4月に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」※が適用されたことで生じる問題の総称です。
働き方改革関連法は2019年4月に施行されましたが、建設業界などは労働環境における課題の多さから短期間での対応が難しく、5年間の猶予措置がとられました。それが2024年3月末に期限を迎え、同法による時間外労働の上限規制を受けることになりました。
時間外労働時間は特別条項がつくものの「月45時間・年360時間まで」が原則であり、違反した場合は「6カ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金」が科せられます。長時間労働に頼った現在の建設生産プロセスでは対応できない可能性が高いため、建設DXによる抜本的な労働環境の改善が必要とされているのです。
建設業界がかかえる課題
建設業界がかかえる課題を3つ解説します。どれも一朝一夕では解決できない問題であり、DXの必要性をいっそう高める要因となっています。
就業者数の低下・高齢化
建設業界では、就業者数の低下と高齢化が深刻化しています。国土交通省の調査によると、1997年の就業者数は685万人いましたが、2022年には479万人まで減少しました。さらに建設技能者数は、15歳から29歳以下が35.3万人で全体の11.7%、60歳以上が77.6万人で25.7%を占めていました。
若年層の就業者数は年々少なくなっている状況にありながら、60歳以上の就業者は10年後に大半が引退すると見込まれています。建設業界の労働力不足はますます加速することが懸念されており、同時に後継者不在による建設技術断絶も問題視されているのです。
■建設業における職業別就業者数の推移
- 国土交通省「建設業を巡る現状と課題」
資金調達
資金調達も、建設業界の課題のひとつです。建設業は建設資材の購入など出費が先行し、報酬を得るまでに時間を要します。しかも、建設はプロジェクトの規模が大きいため、多額の資金が必要となるケースが多く、銀行融資を受けにくい構造になっています。特に、中小企業が資金を調達するのは容易ではありません。
加えて、2021年後半から各建設資材価格が高騰しており、資金繰りが厳しくなっているのが現状です。財務状況が切迫すれば当然、デジタル技術の導入や人材育成・確保に対する投資が難しく、DX推進が停滞する原因となっています。
働き方改革
建設業界では、働き方改革への対応も課題となっています。「働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすること」を目指す働き方改革では、長時間労働の是正などを図る必要がありますが、建設業界では十分な取り組みができていません。
国土交通省の「最近の建設業を巡る状況について」によると、建設業界では2021年度の年間実労働時間が1,978時間で、年間出勤日数が242日でした。全産業の平均より346時間も労働時間が長く、30日間も休みが少なく、建設業界の働き方改革は他産業より遅れていることが判明しています。
■年間実労働時間の推移
■年間出勤日数の推移
- 国土交通省「最近の建設業を巡る状況について」
建設業がDXに取り組むメリット
建設DXは、建設業を営む企業に多くのポジティブな効果をもたらします。なかでも、事業継続性を高める重要なメリットを3つ紹介します。
技術継承の円滑化
建設業がDXに取り組むメリットのひとつは、技術継承を円滑化できることです。デジタル技術を活用すれば、ベテラン建設技能者が持つ技術や知識をデータとして残すことが可能です。これによって社内全体にノウハウが共有しやすくなり、ベテラン建設技能者が定年退職間近であっても、時間にとらわれずに技能継承に取り組めます。
また、デジタルツールを用いたトレーニングやシミュレーションによって、人材育成を効率的に進めることもできます。
生産性・安全性の向上
生産性・安全性の向上も、建設業がDXに取り組むメリットのひとつです。例えば、3Dデータを導入し、さらに業務を一元管理することで、プロセスの最適化や省力化、人的ミスの低減、安全設計の強化が期待できます。
また、建設機械のリモート操作などの導入によって、危険が伴う作業が不要となります。現場の安全確保が容易となり、現場の従業員が安心して働けるようになるでしょう。
過重労働や人手不足の解消
過重労働や人手不足の解消も、建設業がDXに取り組むメリットです。ロボットを導入すれば業務を自動化でき、従業員にかかる負担を軽減できます。また、データを一元管理してオンライン上で共有すれば、どこからでも施工状況などを把握でき、現場への移動時間の削減が可能です。
オンライン環境を整備することで、データの整理や確認など事務作業の手間も減らせます。それによって業務全体の必要工数を減少できれば、過重労働や人手不足も解消できるでしょう。
建設DXで用いられるデジタル技術
ここからは、建設DXの具体的なデジタル技術を6つ紹介します。いずれも現場や経営など幅広い業務に活用されており、これらによって大きな成果を上げた企業も少なくありませんので、ぜひ参考にしてください。
BIM/CIM
BIM/CIMは、建築や土木などの建設プロジェクトにおいて、3Dモデルを活用して情報共有や工程管理を行う手法です。BIMとはBuilding Information Modelingの略称で、建物の情報を3Dモデルで表現する技術、CIMはConstruction Information Modelingの略称で、BIMの概念を土木工事にも適用した技術です。
BIMは建築、CIMは土木で主に活用され、業務プロセスの効率化や品質の向上、コスト削減や人的ミス低減などに役立ちます。
ICT(情報通信技術)
ICTとは、Information and Communication Technologyの略称で、インターネットを活用した情報共有を実現する技術です。管理システムを導入すれば、プロジェクトの進捗が可視化され、リアルタイムでの管理やスムーズな情報共有が可能となります。また、自動運転や自動制御といった機能を搭載する「ICT建機」を活用すれば、生産性と安全性の向上も図れるでしょう。
AI(人工知能)
AI技術は、建設業界でも多様な業務に活用されています。建設現場の画像や映像を分析して、進捗状況を可視化したり、安全性を確認したりすることができます。また、AIで構造計算や設計シミュレーションの精度を向上させることで、より安全で効率的な建設計画が可能になります。
AIのもうひとつの活用例は、ベテランの建設技能者の技術や知識をデジタル化し、これを新しい機械やシステムに学習させることです。これにより、品質の高い作業を自動化し、工数の削減や生産性の向上が期待できます。
ディープラーニング(深層学習)
ディープラーニングは、AIの学習に用いられる技術で大量のデータからパターンや規則性を発見し、人間に近い判断を可能にします。何千もの画像データを分析することで、AIは構造物の精密な測定や設備の劣化状態を特定でき、これまで人間による目視に頼っていた部分を効率的に自動化します。
ディープラーニングを用いたAIの導入により、建設現場では、安全リスクの早期発見や劣化予測が可能になります。これによって、不測の事故を未然に防ぎ、作業効率を大幅に向上させることが可能です。
SaaS(クラウドサービス)
SaaSはSoftware as a Serviceの略称で、クラウド上にあるソフトウェアをインターネット経由で利用できるサービスです。データの一元管理と共有を可能とし、場所を問わずに最新の情報を取得したり、他社とスムーズに協働したりすることが可能です。その種類は豊富で、建設業に特化したソフトウェアもあり、容易に業務のデジタル化を実現できます。
ドローン
ドローンは無人航空機のことで、搭載したカメラで建設現場などを空撮できます。AIなどによる映像解析技術と組みあわせることで、危険な場所に足を踏み入れることなく、何日もかかっていた測量を数十分で終えることが可能です。ほかにも、建設の進捗確認や点検作業にも活用でき、作業効率と安全性の向上に寄与します。
建設DXの具体的な取り組み
最後に、建設DXの具体的な取り組みを4つ紹介します。いずれもインフラにおける事例ですので、目指すべき姿のひとつとして参考にしてください。
デジタル技術によるホーム転落防止
国土交通省、鉄道事業社等は、ホームドアが未整備の駅ホームにて、ITやセンシング技術などを活用することで、ホーム転落事故を防止する実証実験を実施しています。小田急線のホームに設置されたAIカメラで視覚障害者の白杖を検知し、転落の危険性がある場合、スピーカーで注意喚起を行いました。
また、JR西日本は既存の監視カメラに画像処理機能を付与することで、ホーム端の歩行や転落などを感知して、駅係員に通知するシステムを構築しました。先進のホーム転落防止技術の導入によって、駅における事故抑制が期待されます。
無人化・自律施工による安全性の向上
国土交通省や地方整備局は、危険な作業現場での安全性を向上する取り組みとして、無人化施工や自律施工の研究開発を推進しています。この取り組みには、AIを搭載した建設機械による自動施工や、VRによる建設機械の遠隔操作などが含まれているため、大規模な災害復旧作業など危険を伴う作業環境において、人の作業を支援あるいは代替することが可能になりました。
ICTやAIなどによる点検の効率化
ICTやAIなどによって、点検の効率化・高度化が実現しています。作業員がウェアラブルカメラで現場の状況を映すことで、その場にいない管理職や協力企業の担当者もリモートで確認できるようになりました。
また、道路舗装の点検では、パトロール車両に搭載したカメラの映像をAI技術で解析することで、損傷具合をリアルタイムで判断できるようになりました。結果として点検業務の効率化は、安全確認の精度向上や業務プロセスの改善にもつながったのです。
3Dデータなどを保管・活用
国土交通省などは、建設業務で得られる3Dデータや点群データなどを保管し、閲覧とデータ加工を自由にできる実証研修システム「DXデータセンター」を構築しました。「建設業の中小企業などが3Dモデルを活用することを支援する」ことを目的にしており、実際に2023年1月から正式運用されています。データの利活用を活性化することで、社会課題の解決策を目指した取り組みであるといえます。
建設業界が抱える課題をDXで解決する
建設業を営む企業にとってDX推進はもはや避けて通れません。2024年問題への対応はもちろん、今後も成長を続けていくためには不可欠な取り組みです。
ただし、まだDXを始めたばかりの企業や、大きな予算が使えない中小企業では、独自システムを開発したり、AIやディープラーニングを導入したりするのは、専門的な知識や大きなコストが必要なため、得策ではありません。手軽に導入できるDX支援サービスの中でも、低コストで導入できる「DXツール」を利用するのがおすすめです。
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