昨今では企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)にますます注目が集まっています。しかし、DXの進行度を測る「DX推進指標」はあまり知られていないかもしれません。知っていても「どのように活用すればいいのか分からない」という人も少なくないでしょう。
この記事では、DX 推進指標の策定された背景や、具体的な指標、診断手順のほか、活用方法について解説します。DX推進指標を盛り込むことで、自社の取り組みがより効率的になるはずです。
目次
DX推進指標とはDXの進捗を自己診断するための指標
DX推進指標は、DXの進捗を自己診断するための指標です。2019年7月に経済産業省によって、「直面しているDXの課題を指標項目とし、経営幹部などが自社の現状や課題についての認識を共有し、関係者がアクションを起こすための気づきの機会を提供するツール」として策定されました。
DX推進指標は、日本企業が直面している課題やその解決のために押さえるべき内容を中心に構成されています。具体的には「DX推進のための経営のあり方、仕組み」と「DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築」という2つの観点に対して、定性・定量の両面から指標が設けられました。
あくまでも企業の変化への対応力を可視化する手段であり、「認識共有・啓発」「アクション創出」「進捗管理」に活用することが想定されています。
- 経済産業省「DX推進指標」(2019年7月発表)
主要なDX推進指標
主要なDX推進指標について紹介しましょう。DX推進指標には、「DX推進の枠組みに関する定性指標」と「ITシステム構築の枠組みに関する定性指標」の2つがあり、いずれもどのような観点で評価するのかという明確な指標があります。「ビジョン」から「事業への落とし込み」までがDX推進の枠組みに関する定性指標、「ビジョン実現の基盤としてのITシステムの構築」と「ガバナンス・体制」がITシステム構築の枠組みに関する定性指標です。
自社に当てはめながら確認すれば、DX推進指標を活用するイメージがわきやすいはずです。
■DX推進指標の構成
評価の際には、上記図の各指標に関連する「キークエスチョン(主要な質問)」と「サブクエスチョン(補足的な質問)」を参考にしながら、自社のDX推進の進行状況を評価しましょう。
<定性指標の質問>
- キークエスチョン: 経営者が自ら回答することが望ましい質問
- サブクエスチョン: 経営者が経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門等と議論をしながら回答する質問
これにより、DX推進の進捗を明確に把握し、必要な改善策を講じるための方向性が見えてきます。
- 参考元:経済産業省『「DX推進指標」とそのガイダンス』
ビジョン
ビジョンは、その名のとおり、DX推進のビジョンを共有できているかを測る指標です。社内のみならず、協働をする外部パートナーにも、顧客視点での価値創造とビジョンの実現の必要性がどれだけ浸透しているのかを評価します。
経営トップのコミットメント
経営トップのコミットメントは、経営層がビジョン実現に向けた仕組みを明確化し、実践しているか確かめる指標です。経営層がリーダーシップを発揮しながら、DX推進の組織整備や予算配分などを見直し、最適な仕組みを構築しているかを確かめます。
仕組み(マインドセット・企業文化)
マインドセット・企業文化は、PDCAサイクルを高速で回し続けられる仕組みが構築できているかを評価する指標です。挑戦を促し、失敗しても学びを得られる体制構築やKPI設定、評価制度などが整備されているかどうかで判断します。
仕組み(推進・サポート体制)
推進・サポート体制は、DX推進を担う部署や人材だけでなく、その役割が明確になり、必要な権限が与えられているかをチェックする指標です。「DX推進に関連する部署が協力し合える体制を築けているか」「外部との連携にも取り組んでいるか」を評価します。
仕組み(人材育成・確保)
人材育成・確保は、DX推進に必要な人材の育成・確保に向けた取り組みを評する指標です。デジタル技術を支える人材だけでなく、事業とデジタル技術に精通した人材の育成・確保に取り組んでいるかどうか、も評価します。さらに両者が融合してDX推進に取り組める体制が整えられているかどうか、も評価基準です。
事業への落とし込み
事業への落とし込みは、経営者がリーダーシップを発揮し、DXに取り組んでいるかを確認する指標です。具体的には、成果が出ない段階において経営層が持続的にDXをリードしているかどうか、ビジネスモデルや業務プロセスなどを改革する戦略やロードマップが明確化されているかどうか、などを評価します。
ビジョン実現の基盤としてのITシステムの構築
ビジョン実現の基盤としてのITシステムの構築は、ビジョン実現に向けて既存システムを見直し、最適な対応策が講じられているかを測る指標です。「過剰な個別最適によるシステムのブラックボックス化がなされていないか」「保守・管理費が高騰していないか」などが評価基準となります。
ガバナンス・体制
ガバナンス・体制は、価値創出につながる領域に対し、資金・人材を最適に配分できているか確かめる指標です。例えば「部門を超えて横断的に判断・決定できる体制が構築できているか」「事業がうまくいったかどうかでDXへの投資を評価する仕組みがあるか」などをチェックします。
DX推進指標における成熟度の考え方
DX推進指標の定性指標は、6段階の成熟度レベルで評価します。これによって、自社の現状と次に目指す状態を可視化でき、とるべきアクションの具体化まで期待できるのです。
ここでは、各レベルの状態における考え方をまとめました。ただ、実際に自己診断する際は、各項目に設けられた詳細な考え方に従って判断することになります。
■DX推進の成熟度
成熟度 | 詳細な考え方 |
---|---|
レベル0:未着手 | 経営者が無関心、あるいは関心があっても具体的な取り組みに至っていないレベル |
レベル1:一部での散発的実施 | 全社戦略が明確でなく、部門単位での試行・実施にとどまっているレベル |
レベル2:一部での戦略的実施 | 明確化された全社戦略に基づいて、部門の一部がDXを推進しているレベル |
レベル3:全社戦略に基づく部分横断的推進 | 全社戦略の下、各部門がDXを推進しているレベル |
レベル4:全社戦略に基づく持続的実施 | 定量的な指標などが設けられ、DXを持続的に推進できているレベル |
レベル5:グローバル市場におけるデジタル企業 | デジタル企業としてグローバル市場での競争を勝ち抜くことのできるレベル |
DX推進指標を用いた診断手順
DX推進指標を用いた、診断の手順を解説します。DX推進指標は、自己診断を行い、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が運営する「DX推進ポータル」から提出する必要があります。その際に、各企業の自己診断を分析した結果を記載した「ベンチマークレポート」を取得しましょう。
- Web申請システム「DX推進ポータル」
DX推進指標による自己診断を行う
まずはDX推進指標の自己診断を行います。「DX推進ポータル」から「DX推進指標自己診断フォーマット」をダウンロードし、同ファイルの各シートに沿って、現在の成熟度レベルや目標などの項目に回答します。記入時には、経営層やDX担当者など関係者で議論しながら、内容を検討することが大切です。
なお、DX推進指標自己診断フォーマットは、必ず最新版を利用してください。
自己診断結果を送付する
次に自己診断結果をIPAに送付します。DX推進ポータルにアクセスし、記入したDX推進指標自己診断フォーマットを提出してください。自己診断の分析結果を記載したベンチマークレポートは11月以降に公開される「速報版」と、翌年2月以降の「確報版」の2種類がありますが、いずれも提出後に取得できます。
なお、DX推進ポータルの利用には「gBizID」アカウントが必須となります。自己診断フォーマットの提出前に、アカウントを取得しておきましょう。
DX推進指標の活用方法
最後に、DX推進指標の活用方法を紹介します。自己診断の結果を自社の施策に取り入れることができれば、より効率的にDXを推進できるはずです。
自己診断結果とベンチマークレポートを比較する
DX推進指標による自己診断の結果と、ベンチマークレポートの情報を比較し、自社の現状を正しく把握しましょう。ベンチマークレポートには業種や売上規模、従業員規模別のデータなどが掲載されています。つまり、多角的な観点から自社を分析でき、業界におけるポジションも客観的に評価できるのです。
関係者全員でDX推進について議論する
自己診断によって、経営層やDX担当者など関係者全員で今後のDX推進について議論します。DX推進指標はDX推進の尺度を画一化してくれるため、自社の現状や課題の共有に有効です。結果として、DX戦略の具体化やロードマップの策定など、ビジョン実現に向けた議論が活性化するでしょう。
既存システムの対応策を講じる
自己診断の結果、既存システムに見直しが必要であると判明したら、システムの刷新など対応策を講じます。データ活用や全社最適など、「ITシステム構築に枠組みに関する定性指標」の成熟度レベルが高まるように改善していくと効率的です。
DX推進指標を効果的に活用しよう
DX推進指標は、DX 推進の起爆剤となりえます。自社の現状を正しく把握するだけでなく、アクション創出や進捗管理にも有効であり、DXによるビジョン実現を大きく加速してくれることでしょう。自社のDXを効率的に推進するために、ぜひDX推進指標をご活用ください。